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ケイズハウス京都

元祖恋愛小説・源氏物語

紫式部像 京都-土地文化に触れる
紫式部像

あなたは世界最古の長編小説をご存知ですか?

それはなんと日本の「源氏物語」です。著者の紫式部が長い年月をかけて書き上げたといわれ、日本文学史上最高傑作とされています。今年の大河ドラマ「光る君へ」で吉高由里子さんが紫式部の生涯を演じています。

注目度が高まる源氏物語ですが「古典文学はちょっと…」という方もおられるのではないでしょうか。

そんな今まで敬遠していた方に少しでも魅力が伝わるように、京都のとあるゲストハウスの、イチ受付スタッフがこの物語の魅力をお伝えしようと思います。併せて源氏物語ゆかりの地を紹介し、千年以上も前に描かれた日本が誇る小説を「面白そう」と関心を持ってもらえたらなと思います。

すべてが曖昧

全54帖からなる源氏物語は約430人もの人物が登場しますが、そのほとんどの登場人物は名前が付けられていません。「光源氏」や、そもそも本のタイトルの「源氏物語」までもが紫式部が付けたものではないのです。

では誰が付けたのか?

それは後々、ファンが物語に出てくる花の名前などから付けられたと言われています。

そもそも平安時代、身分の高い貴族たちは名前で呼ぶことを失礼としていたため役職名で呼び合っていました。よって源氏物語に出てくるほとんどの登場人物にはハッキリした名前が付けられていないのです。

約800首の和歌

平安時代の貴族は愛の言葉やその時の心情を和歌にのせて相手に送ります。そして源氏物語に出てくる和歌の数はなんと795首!約800首もの和歌が詠まれているのです。ちなみに私のお気に入りはこちら。

深草の 野辺の桜し 心あらば 今年ばかりは 墨染めに咲け
訳:桜よ もしお前に私の心が分かるなら 今年だけは喪の色に咲いておくれ

元々は古今和歌集に出てくる和歌ですが、初恋の人が亡くなったとき光源氏が詠んだ歌でも知られています。

初恋の人を失い悲しみのどん底にいる光源氏。誰にも打ち明けることのできない思いを抱え続け、彼女を失った今もそれを吐き出せる相手もいない。光源氏が唯一思いを共有しようとしたのは庭に咲いている桜だけでした。

とても悲しい歌ですが、光源氏が悲しみに暮れている傍らで、そんな気持ちをつゆ知らず咲き誇る満開の桜。そんな切ない情景が思い浮かぶ私の好きな和歌のひとつです。京都の四季がこんなにも美しく、世界でも類を見ない街なのは、昔の人が春夏秋冬を愛し、そしてそれを和歌に残し愛でたからだと私は思います。

姫たち

さまざまな姫たちが出てくるのも源氏物語の魅力のひとつではないでしょうか。光源氏の初恋の人「藤壺」、中流階級の紫式部が自分を重ねたと言われる「夕顔」、そして光源氏が一番愛した「紫の上」。ちなみに私の推しは、禁断の恋を重ね、そののち光源氏に悲劇をもたらした「朧月夜」。彼女との密会がバレたときの光源氏の堂々たる姿には尊敬すら覚えます。

主に女性たちの階級や容姿に惹かれていた光源氏が珍しい方に思いを寄せたパターンもあります。それが「末摘花」という女性。身分は決して低かったわけではありませんが、後ろ盾を無くし質素な暮らしをしていた末摘花。雪の積もった朝、彼女の容姿を見た光源氏はその醜さに衝撃を受けます。その後、たいへんな事件を起こし数年もの間、光源氏は末摘花と会うことはありませんでした。音沙汰のない相手をあなたならどのくらいの期間待てますか?彼女は数年間もの間ひたすら光源氏を待ち続けました。そして再び巡り会ったとき光源氏は彼女のひたむきな一途さに心打たれたと言われています。

光源氏が恋焦がれた女性の中では珍しく、光源氏は末摘花の”性格”に惹かれたのですね。

ゆかりの地

京都御所の東に位置し、紫式部が源氏物語を執筆したとされる「盧山寺」。ここにはかつて紫式部の邸宅があり、のちに盧山寺が移転されました。ここでは梅雨から夏にかけてお庭の「源氏庭」に桔梗が咲き誇ります。とても小さなお寺ですが、世界最古の長編小説「源氏物語」がここで書かれたと思うと趣がありますね。

京都には源氏物語にゆかりのある地が他にも数多くあります。第9帖「葵」で描かれた賀茂祭(現在の葵祭)では世界遺産の上賀茂神社・下鴨神社のお祭りですし、嵐山にある野宮神社は光源氏が六条御息所にお忍びで会いに来たところです。

そして驚きなのは街中に「夕顔の墓」という実在する位牌があるのです。小説(フィクション)の源氏物語ですが、熱烈なファンが位牌を建てたと言われています。

さいごに

稀代のプレイボーイ光源氏が数多くの女性たちと恋に落ちる、一見華やかな恋物語にみえる源氏物語ですが、紫式部が物語を通して言いたかったこと。それはその時代に生きている女性たちにフォーカスを当てて欲しかったのではないでしょうか。

娘を天皇の妻にさせ、子供を産むことがその当時の男性貴族には何よりの権力を持つこととされていた平安時代。そこで生きる男たちの政治に使われていた女性たち。女性の扱われ方への不満が源氏物語には出ている気がします。なぜなら源氏物語に出てくる姫たちの中で、幸せそうな女性は一人もいないと私は感じました。光源氏に一番愛された「紫の上」でさえも、女性関係の辛さゆえ光源氏から離れ尼になろうとしたくらいです。キラキラとした恋物語の裏に隠された、紫式部の“思い”を和歌や物語を通して読み取ってみてはいかがでしょうか。